143.自慢

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今年の夏に学展、という学生さん向けの全国絵画コンクールがあって、
アトリエでは毎年数名が出品している。
今年は各曜日クラスから小学校3年生から5年生までの人と、
高校1年生の男の子の合わせて5人のひとが出品した。

3人が入選して、2人が賞をいただいた。
全員入選するのは毎年のことなので珍しくはないのだけれど、
入賞者がでたのは初めてで、本人たちが一番驚いていたのではないかと思う。

と、このように書くと、
「賞をとるような作品を作れるアトリエですよ、すごいでしょ~」
という自慢なのかと思われるかもしれないが、断じてそうではない。

そういう自慢に思われたらこまるなあ、と思って
なかなかコラムに書けなかったのだ。
そして、コンクールに入選することをめざして
アトリエにアクセスしてくる方がいらしたら、もっとこまると思っている。

自慢したいのはそこではない。
「全員がじぶんの力でまったく違った絵を出した」
というところを自慢したいのだ。

なので、これからみっちりとひとりひとりを自慢していこうとおもう。

まず3年生のりんちゃん。

絵の具を使うのが好きで、絵をダイナミックに描くことができる彼女は
抽象的な絵を描いた。
ジャンルとしてはアクリル絵具を用いた抽象画だ。

3年生で抽象表現が理解できるの?という疑問を持たれる方も
おいでかもしれないが、それはアプローチ、紹介の仕方なんだと思っている。

彼女は音楽を聴いてそれを色と形に置き換える、
アルケミストでは定番のWSが好きだ。
ふだんの制作でも「りんは今日音楽きいて描くやつをやるね」と
自分で自主的に描いたりしているため、
「何も具体的なものを描かなくても、色や形、線のリズムで表現はできる」
ということを感じとして理解している。

今回は「気持ちのいい配色をしてみよう」といいながら描いていた。
丈夫で大きい紙を使い、大きな刷毛で思い切って腕を大きく動かして
描いてもらった。
りんちゃんは集中力があるし、新しいことを知るのにも貪欲なので、
異なった色を重ねると響きがきれい、ということを
新しく知ってもらうためにアクリル絵の具を使って
グレーズという技法をやってもらった。
油絵で使われることが多い技法だ。
タイトルは「希望の虹」。
本人がつけた。

3年生のたいしくんと4ねんせいのしょうちゃんは、
実際のものを目で見て的確に表現するのが好きだしとても得意なので、「
見て描く」ことをやってもらった。
何を描くかはもちろん自分たちで決めてもらった。

しょうたくんは上野の博物館に出かけて、ワニを見ながら描いたものと、
自分のなかの「格好いいベスト空想ワニ」の二枚を描いた。
空想ワニは油絵で、見て描いたワニはアクリルで描いた。
形を把握することが本当に好きで巧みなので、いつも感心してしまう。

知的に理解する力がとても高いひとなので、
そこは5人中もっとも気を使った。

技術的な面でこちらが言ったことを、
スポンジが水を吸うように全部覚えてしまうのだ。
ともすると「じぶんで見ないで」覚えたテクニックで
描いてしまうことになりかねないので、
「これってこうしたいんだけどどうやったらいいの」と聞かれた時だけ
答えるように慎重にやりとりをした。
空想のワニは入選、
博物館でスケッチしたワニをアクリル画にしたものは入賞した。

たいしくんは3年生にして初めての油絵に挑戦した。
大好きなクジラを描いたのだが、目にこだわりがあって、
クロッキー帳には100以上の目を集中的に下描きしたものが残った。
別にコラムを書いたので、ここではあまり描かないけれど
彼の制作は興味深かった。
四角四面なまじめさでは決してない、
彼独特の物事に対しての誠実さが作品の完成度につながっているのだと思う。

小学校5年生のまゆこちゃんは、
アトリエは1年生からのベテラン組だ。
キャンパスにアクリル絵の具を使ってアトリエのテーブル上の風景を描いた。

彼女は何をかくか迷ったので、
カメラを持ってアトリエ内を探検してもらい、
撮った写真の中から描くものを選んでもらった。

制作スタイルとしてはどんどん自分で進める、というよりも、
まずスタンダードな手順や基本の構造を理解した上で
そこから応用していくひとなので、
色を重ねるとこうなるよ、とか、
絵の具に加える水分量で透明にも不透明にもなるよ、というような
細かい「こうやったら、こうなる」ことを
実際に試してもらいながら進めていった。

彼女の制作は、瞬発力のある応用力と粘り強さが特徴だ。

今回は色鉛筆がたくさん入った陶器の鉛筆立てをアップで描いたので、
とくに粘り強さは必須だった。
学校の授業作品ではないものを、
何週間もかけてコツコツ描いていくのには、
完成させたいという気持ちだけでは挫折してしまうひともいるだろう。
一本一本色鉛筆を描いていくまゆこちゃんをみながら、
「これってまゆちゃんだから描けるんだよね。。。」とスタッフ同士で
よく言い合った。

高校1年生のけんと君は、独特の強さを感じる筆跡が特徴的だ。
空想よりも実物を見ながら描くほうがよいとのことだったので、
まゆこちゃん同様、まず写真を撮りながらテーマを「取材」してもらい、
そこから自分で何を描くか、何を表現したいかを選んでもらった。

彼が選んだのはアトリエの廊下だ。
いつも自分がデッサンをしている部屋から入り口へと続く廊下を、
明るい玄関窓を遠くに見るような構図を描いた。

手法は油絵。油絵としては小さめのサイズの絵を描いた。

アトリエの廊下は暗くて古くて狭い。
わたしはそのように美しいとみたことがなかった。
だから、けんとくんの見る世界ってこんなに美しいんだ、と
ちょっと感動してしまった。

タイトルは「光」。
古い木造のアトリエなので、基本は茶色と黒くらいしか使う色はない。
決して派手でもきらびやかでもない色彩だ。

でも展示会では、堂々とした大きなサイズの作品が大半を占めるなか、
伝えたいことにまっすぐ向き合った、
小さなけんとくんの作品の横に「賞」の札がついた。
その様子はちょっと嬉しい光景だった。

アルケミストでは、ちびっ子だろうと大人のひとであろうと、
いらしたひとと会話で相談しながらやっていくことを決めていく。

話して、決めて、やってみて、
「何か違う」と思ったら変えたり、
完成したものと制作した実感から「じゃあ、つぎはこうしよう」となる。

今回も全員、実際の絵の具や画材の使い方をレクチャーはしても、
「何を描くか」はほぼノータッチだ。

それでもこんな素敵なものができる、ということが嬉しくて、
たいへんながながと自慢のコラムを描いた。

私自身はみんなと同じくらいの年齢の時には
ヤマモモの樹に登って実を採って食べることにはまっていた。
文化度がもうぜんぜん違う。

いやー。。。。みんなすごいよなあ。
そんなことを5人の制作を一緒に過ごして思った。
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