139.たいしくん

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月曜日にたいしくん、という男の子が来ている。

クジラが大好きで、今はF15号という
大きな座ぶとんくらいのサイズのキャンパスに
油絵の具を使ってクジラを描いている。

今は準備や後片付けも含めて手順が分かってきて、
絵の具を重ねるとどうなるか、
オイルをどの程度加えるとどうなるかなどの
経験値をかさねながら進めることができているけれど、
はじめのうちは大変だった。

クジラを描く、ということはわりあいにすぐ決まったのだが、
下描きにとても時間がかかったのだ。

たいしくんは、じぶんのクロッキー帳(制作ノートのようなもの)に
下描きを描いていて、持って来たお気に入りのクジラの画像を見ながら、
丁寧に形を追っていた。
でも描き進めてゆくうち、たいしくんは「うーーん」とうなりながら
制作の手を止めてしまった。
「クジラの目が気に入らない」とのこと。

消しては描きを繰り返したので、クロッキー帳は
表面がバサバサになってしまっている。
「新しいページにして、描いたものを全部残しておいた方が
あとで選べますよ」と伝えると、
たいしくんはうなづいて、ぺらりとページをめくると、
再びクロッキー帳に向かってクジラの目だけを描きだした。
ひとつひとつ、何かを確かめるようにしながら目を描いていく。

「もうちょっと優しい」
「もうちょっとおおきい」
「形がちがう」
「うまくいえないけどこうじゃない」

ぶつぶつといいながらたいし君は目を描きつづけた。

何度も何度もやり直して、描いたクジラの目は50ほどだろうか。
あまりに描き過ぎて疲れた様子のたいしくんに、
「油絵はね下描き消えちゃうんです。今描いた線は絵の具が上に塗られて消えますし、
上からどんどん描き直せるんですよ」と話すのだが、
彼は「でも目は大事だから」と黙々を試行錯誤を続けた。

目だけを描き続けて1時間ほど経ったろうか。
妖怪百目のように目だらけになったクロッキー帳を眺めたたいしくんは大きく息をついて、
「できた。。。。。これかな」とひとつを指差した。

同じように、クジラのフォルムもこだわり、
大きさも色々試してようやく油絵の作業となった。

興味深かったのは、油絵の具を重ねることで鉛筆の線が消えてしまうことには、
たいし君がほとんどこだわらなかった、というところだ。意外だった。

「たいしくん、あんなに苦労したのに、描いた目は消えてもべつにいいんですね。。。
不思議だ。。。なんでですか?」そういう私に、
たいし君はクジラの絵から目を離さず、首をかしげながら答えてくれた。

「うーーん。。なんか。。。
こういう形なんだ、っていうのが描ければそれでいいから。
だってちゃんと描ければ、消えてもまた描けると思う。
あ、ちょっとは違っちゃうかもだけど」

「。。。なんかびっくりすること言いますねたいしくん」

「。。。え。。そうかな」

「何歳ですかたいしくん」

「小3」

うーーーん。

人類は進化しているとしか思えない、と、よく思う。