136.ラリー

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アトリエでは、さまざまな年齢の方が、それぞれに興味がある制作をして頂いている。

同じ部屋のなかでこちらでは絵を絵の具で描いていて、
あちらでは粘土を使っていて、
ここではのこぎりを使って木を切っている。。。といったような風景は、
ここアルケミストでは日常の風景だ。

普段は皆、ばらばらの制作をしているアトリエだけれど、
ちびっ子クラスには月に1回、「テーマ制作」という時間を設けている。
スタッフが持ち回りで「こんな制作があるよ」という紹介して、みんなでそれを作ってみる時間だ。

「やってみたい制作をしてごらん」と言われても、
どんな制作があるのか知らなければ選択肢にあげられない。

知らないものは選べないし、やったことがなければそれが好きかどうかもわからないはずだ。

なので、まずは「こんな制作があるんだ!」と分野を知ってもらい、
実際にやってもらって、経験の引き出しをつくってもらおう、という考え方だ。

皆で同じ制作をするのだけれど、
学校と違う点は、テーマ制作があくまで個々の制作のきっかけであり、
純粋な「紹介」だというところだ。

だから、テーマ制作の日は、時間の前半は皆で同じものを作るのだけれど、
後半になるとそれをもとに各自が色々な工夫を加えたり、
そこから別のものを発想して作品をつくったりしている。

それは、ある完成作品を目指して「教える」というよりも
テニスのラリーやキャッチボールのイメージに近い。
こちらがこういうボールを投げたら、こう返してきたか!という驚きが毎回ある。

紹介した手法や制作をこういう風に使ったのか!という驚きのほかにも、
イメージやアイデアが出る段階自体も側でみているとおもしろい。

まず本棚にいくひとや、今目の前にある作品をにらんでじっと沈思黙考する子、
アトリエ内をうろうろと動き回って
材料を物色してアイデアのきっかけを得るひともいる。

そういうときの私たちは、
投げたボールがどう返ってくるのかわくわくしながら待つ、といった状態だ。

ぼーっと待ってはいなくて、ちびっ子の様子を感じながら、
自分でも同じ制作をすることが多い。
ベテランのスタッフだと、自分自身がやりたい制作をいつも持っていて、
それをやりながらちびっ子とやりとりしたりしている。

この、静かだけど熱のこもった雰囲気の時間が私は大好きだ。

桜子さん、という大学生のスタッフのひとは、ちびっ子へのラリーがとても上手い。

みんなのアイデアが入り込む余地があって、
なおかつちびっ子が「やろうかな」と興味を持ってくれる制作の提案をしてくれる。

先日桜子さんは「デカルコマニー」を提案した。

紙に絵の具をたらして二つ折りにして開くと左右対称な絵柄が出来る、
というごく単純なもので、
幼稚園や小学校では定番の技法だと思っていたのだが、
その日アトリエに来ていた小学校4年生と5年生のちびっ子2人に聞くと
「いままでやったことがない」とのこと。
盲点だった。

桜子さんが紹介したデカルコマニーの手順を見て、
1、2枚やってみたあとは、こんどはちびっ子がそれを元に作品を作る番だ。

二人とも、しばらく考えていたが、
アイデアが決まるときっと早く形にしたかったのだろう、
ハサミを取りにいったり、ボンドを手元に置いたり、
材料を集めたりといったことをちょっと小走りになりながらやっていた。

出来上がったものはいままでと違って具体的な形はないけれど、
不思議な色の響き合いがあった。

二人はその作品を、掃除中もなんども見直したり、紙を立てて並べて見たりしていた。

「お友達の作品のいいところをさがしましょう。それをカードに書きましょう」
というせりふは図工の観賞の定番だ。
そうやって言葉にすることで、はじめて自分の気持ちに気がつくこともあると思う。

でも、すぐ言葉にはならなくても、なんだかわからないけどいいな、
なんだろう、これいいなって思っているこの時間もすごく大事で、
むしろこちらが「感じている」っていうことの
コアなんじゃないかなあ。。。。と思っている。

ところで、アトリエの入り口には植木鉢でつくった苔庭があって、
その庭にはオレンジ色の人形がいる。

誰がはじめたのかわからないが、スタッフ間で何となく、
その人形の配置をどんどん変えて遊ぶのが習慣になっている。

バタバタと忙しく働くオープニング作業のなかでちょっと配置を変える、
ただそれだけのことなのだけれど、
その人の機転やあそび心が伝わっておもしろい。

季節もそこで表現していて、
クリスマスの時期は白く塗られたミニチュアの樹木が追加されていたし、
新年は酉年だからだろう、紙粘土の小鳥が追加されていた。

自分が思いもよらなかった配置の苔庭を見ると、(おっ!やるなあ)と思ったりする。

これもラリーだよな、と思ったりしている。