134.その後(2)

133-4

土曜日にきていたももちゃんが美大生になって半年が経つ。

アトリエちびっ子チームから持ち上がりで今年の4月に美大生になったのは3名だ。

ももちゃんはそのうちの一人で、染織を専門に勉強している。
他の二人はアトリエに通い続けているけれど、
ももちゃんは勉強が忙しすぎてなかなか来れない。

先日アトリエのクローズ(最後の後片付け)に人手が足らず、
ももちゃんにメールで助っ人と要請したところ来てくれて、
実に久しぶりに顔を合わせた。髪の毛を長く伸ばして、
うっすらメイクもして、きびきびと立ち働くももちゃんはかなり頼もしかった。

小さい頃から居ただけに、仕事内容も
物品の細かい配置も勝手が分かっている分、仕事が速い。
工作の端材を揃えたり、鉛筆を削ったりと、
休みなく雑事を片付けながら顔見知りの後輩たちに気軽に声をかけている。

「カホちゃんひさしぶり、いくつになったの?」
「中3です」
「もう中三かあ~。。。高校は?」
「美術系の高校にしようと考え中なんです」

ほんと?と私を振り返るももちゃんに私がうなづくと、
「もう8月だよ?急いでデッサンしなきゃじゃん」
と口を引き結んだ。
「そうなんです。もし、受験するなら今からデッサンを始めるのは
かなり遅い。今までの蓄積があるとしても。。。。
だから、まだ受験決定じゃないんだけど、
一応カホちゃんは今日からデッサン本格始動しようと思っているんです」

「先生最初は何描いてもらうつもり」
「今日は様子をみるつもりでりんごにしようと思っているんです。
ももちゃん、できそうだったら一緒に描いてあげてくれますか」

「いいよ」
軽く返事をすると、
ももちゃんは早速イーゼルを用意して鉛筆を選び始めた。

鉛筆を選びながらカホちゃんに色々とアドバイスをしている。
数分後には二人はもうバリバリとりんごを描き始めていた。
いつもはじっくり取り組むタイプのカホちゃんも、
ももちゃんの勢いに押されてスピードが上がっている。
1時間半から2時間というところだろうか、みっちりデッサンに取り組んだあと、
二人は皆がお茶を飲んだりお菓子をつまんだりする休憩テーブルに戻ってきた。

「いやー久々だった」
「。。はー。。」

まだ頭から湯気が出ていそうな二人に冷たいお茶とお菓子を勧めてたずねると、
作品を見ながら具体的にアドバイスをする講評までしてくれたようだった。

カホちゃんが帰り、夕方の大人クラスになると、
ももちゃんは古株スタッフの深谷さんと
今勉強している染織のことについて色々と話をしていた。

授業の課題以外にも興味がある展覧会に出かけたり
文献を集めたりしているとのこと。
その日も近所で行われていた布の博覧会で売られていた
古い染め見本がついた古い染め物の本や、
色巻き、先染めの絹の糸などを買っていていて、
嬉しそうに見せてくれた。

もともと利発な性質の上に勉強家なので、
私も深谷さんも染織に関してはもう、知識も経験も全く追いつかない。
ももちゃんの頼もしさにほんのり嬉しくなった。

制作を通じてそのひとの変化を感じながら一緒に居られることって、
すごく貴重で贅沢だよなあといつも思う。

さらに、そうやって一緒に過ごしたひとたちが
成長して手伝いに来てくれるのは、さらに嬉しいことだよなと思う。

もちろん長いだけがよいということではないし、
中には短いおつきあいとなる人もいるけれど、
ここでの時間がよい記憶として残ってくれるとよいなあと
思うのは誰に対しても同じだ。

「また手が足りなくなったら言って。行けそうだったら、くるから」

どこまでも頼もしいももちゃんは、
元気にカンカンカン!とサンダルのかかとの音を響かせて帰っていった。