087. 本当の恋

087
七夕になると毎年、思い出したように七夕飾りをつくる。
今年は7月7日が土曜日だったので、土曜クラスで七夕飾りを作った。

「おねがいごとをどうぞ」
と言われると、誰もが意外とまじめにお願いごとを考えてしまう。
おもしろいなあと思う。

土曜日にデッサンのレクチャーにきてくれている大学生のオサダくんは、
その飄々とした人柄で皆から好かれるせいか、アトリエの名物人物となっている。

その彼も、短冊を前にしばらく思案していたが、
お願いが決まったのかさらさらと書いた。

『本当の変がしたい』

「。。。。。。。。。。オサダ、これ恋じゃなくて変になってるよ」
「いや。。つか、これ変ですらない。。。。。」
 
おそらく、「こい(恋)」と書きたかったのだろう、その文字は
「へん(変)」に点々が加えられたオリジナルの文字になっていた。

彼の名誉のためにことわっておくが、
オサダくんは、恋という漢字は知っていたと思う。

ひとつのことに思いを馳せている時、彼はその思いや妄想に没頭してしまうため、
色々なことがおろそかになって、おもしろい事になってしまう事が多いのだ。

ひとしきり爆笑されていたが、それがオサダくんのまじめな願いだということは
すぐに周囲に伝わり、その後は静かに「本当の恋とは何か」について語り合った。

制作の場で長いおしゃべりがはじまるのがいいのかどうかは分からないが、
中学生から社会人まで同じ空間にいるなかで、
年齢を超えてまじめに語り合うって、やっぱりちょっといいよな、と思う。

アトリエの、親戚でも学校の友達でもない距離感は、
親密だけど風通しのいい絶妙の間合いで、するりと本音が話せてしまう気がする。

本当の恋とは何か、の会話は大変まじめな内容になった。
話していて、彼に好かれる女の子はきっと幸せだろうなあと思った。
 
そんな中、飾られた短冊に触れていた女性が急に吹き出した。
「。。。。!! オサダ!自分の名前まで間違えてるよ!!」
よく見ると、長田遼太郎、のはずが、『長田遼犬郎』になっていた。
。。りょういぬろう。。。。。。

 
彼は、空気を柔らかくする天才に違いない。

ふだ