077. 芝浜(しばはま)

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昔から落語が好きで、本を集めたり寄席にいったりしていた。
今回は友人が誘ってくれて、立川談春(たちかわだんしゅん)さんの独演会に行って来た。
立川談春師匠は、亡くなった談志師匠の弟子で、
たぶん、いま最も油がのっている噺家さんのひとりだと思う。

演目は「居残り左平次(いのこりさへいじ)」と「芝浜(しばはま)」だった。

「芝浜」は落語の定番とも言えるお話だ。

お酒で身を持ち崩しかけている魚屋さんが、
奥さんにせがまれて渋々と仕事へ出かけたところ、
海辺から大金が入った財布を拾う。
大金が入ったこのお財布をひろった事を「夢だった」と
信じたことがきっかけで、
最終的には魚屋さんは働き者になり、
裏長屋住まいから脱出して、奥さんのありがたみを知り。。。。
といった筋のおはなしだ。

私は、落語は江戸時代の風物の描写も含めた
「アナザーワールドの物語」として聞くのが好きなので、
立川流の、風物よりも
、普遍的な人の心の動きに焦点をあてる噺の仕方は
好みには合わないなあと思っていた。

それを思いながら談春さんの「芝浜」を聞いたのだが、
本当に、おもしろかった。

今までの中で一番おもしろい芝浜だったと思う。

談春さんの芝浜も、談志師匠の
「人間を描く」ことに集中するスタイルと同じなのだけれど、
談志師匠の、人間の業(ごう)をみつめる感じとはちょっとちがった。

なんていうか、鋭いけれど、もうすこしまろやかだった気がする。
理由はわからない。

仕事の腕はいいけれどお酒のせいでしくじっている魚屋さんと、
魚屋さんが好きでしょうがない奥さんとの夫婦愛のお話が軸になって、
すごくリアルな「人間はどこの瞬間で変わるのか」というお話になっていた。

わかりにくい昔の言葉を使ったあとは、
さりげない感じで現代語で言い直してあげていたり、
アツい語り口ながらも細やかな気配りもされていて、うまいなあ。。
と思って聞いた。

こういう解釈の噺を聞いた後に
普通の芝浜をCDで聞き直してみたけれど、
好きだった描写も切り絵みたいに思えてしまい、噺の世界の奥行きが全然違っていた。
談春師匠の人間描写恐るべし、と思った。

昔の噺家さんで一番好きなのは、5代目の古今亭志ん生師匠だ。
ちょっと甲高い声の、いかにも江戸前な語り口で、
話をテンポよくはしょるのが巧い。

今の噺家さんで一番好きなのは柳家小三治師匠だ。

もう一回、談春師匠の噺を聴いたら一位が交代しそうなので、ちょっとわくわくしている。