074. メンズ

074
いつの間にか、クリスマスツリーも街に出てこようかという季節になってしまった。

今年の夏はほとんどコラムの更新をしなかったのだが、
出かけた花火大会で印象深いことがあったため、
コラムだけは書いていた。

いまごろ夏の話だが。。。。。
以下、8月のエピソードだと思って頂ければ幸いです。

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今年も夫婦で花火大会に行って来た。
今年は神奈川の港沿いの公園で打ち上げられる花火大会へ出かけた。

猛暑日で、会場についてすぐに浴衣姿の女性がタンカで運ばれていったりするのを見た。
自分も気をつけねば。。。と、じゃんじゃん水を飲んだ。

周囲は10代~20代のカップルや女子友達で来ている人が多く、
浴衣姿が多かったため目が楽しかった。

とくに左横に座っていた10代後半と思われるカップルは
見ていて素敵だなあと思った。

金茶の髪に軽くパーマをあてた、今っぽいメンズな男子と
厚いつけまつげに栗色の髪を丁寧に結い上げた女の子のカップルなのだが、
やさしくいたわり合っている様子がとてもいい感じだったのだ。

女の子の浴衣の帯は、柿色地に細い浅葱色と抹茶色のラインが入っている実に渋い博多帯で、
とてもきれいに締められていた。

華やかな色彩のかんたん帯もかわいいけれど、
その女の子と渋い帯との組み合わせは新鮮でかわいらしく、目を引いた。

打ち上げ2時間くらい前だろうか、熟年のご夫婦が右隣に座った。
奥さんが「ここいいですか?」と入ってきたのだが、
もうほとんど場所はうまっていたので、並んでは座れず、
そのご夫婦は斜めになる形で座った。

奥さんは元気よく色々とご主人に話しかけていたが、
ご主人はなんだか元気がない様子で、口数も極端に少なかった。

そのうち、ご主人はお手洗いにでも行くのだろうか、
立ち上がって公園の小道のほうへ出て行かれた。

後ろで急に人がざわざわしているので振り向くと、
さっきのご主人が小道の植え込みにしゃがみ込んで吐いてしまっていた。

あっと思う間もなく、左横の男子が立ち上がって様子を見に行き、
救護班を呼ぶように近くの警備の人に頼んでいた。

女の子のほうは、小さな声で、バナナをもぐもぐと食べている奥さんに、
「あの、おとうさんが倒れていますよ」と声をかけていた。

奥さんはよく聞こえなかったようで、「え?なに?」と聞き返したので、
「ご主人の具合が悪いようですよ」と今度は私が言ってみた。

すると奥さんは「あ、今朝から具合が悪いのよ」とさらっと答えた。

何となく、奥さんが慌てて駆け寄る場面をイメージしていたので、
思わず私とその女の子は顔を見合わせてしまった。

「・・あの、でも具合悪そうなんで、見に行ったほうがいいですよ」
と女の子はやっぱり小さな声で言った。

奥さんはしっかりバナナを食べ終わってから立ち上がって、ご主人のところへ歩いていった。

しばらくすると二人で戻ってきたが、もう明らかにご主人は具合が悪そうだった。

奥さんはペットボトルのお茶を飲んだりお菓子を食べたりしていたけれど、
ご主人は何も口にせず、ときどき吐き気をこらえている感じだった。

花火大会が始まって20分くらいだろうか、
やはり帰ることになったらしく、
二人で「帰ります」と周囲に声をかけて立ち上がった。
すると後ろで前回よりもっとざわざわしたので、振り返ってみると、
ご主人は倒れていた。

男の子が再びさっと立ち上がって「おじさん大丈夫ですか?」
と声をかけていた。
「誰か氷もってるひといませんか?あとタオルとか手ぬぐい!」
と男子が言ったので、手ぬぐいを貸した。

氷は後ろに座っている別のカップルが出してくれたので、
男子は氷を手ぬぐいにまいて紳士の頭の後ろを冷やしていた。

その間、奥さんは「あらいいのよ、花火見れないでしょう?私がやりますから」
と言っていた。

男子はついに怒ってしまった。
「全然大丈夫じゃねえよ、あきらかにずっと具合わるかっただろ?
さっきから心配してたんだけどさあ、俺は絶対おばさんの対応に問題があるとおもうよ。
熱中症とかで死ぬ人もいるんだよ?
夫婦なんだろ!?心配じゃねえのかよ!花火とおじさんとどっちが大事なんだよ!!」
とその奥さんを怒鳴りつけていた。

なんだかまずい方向になりそうだと思ったので、まあまあと間に入ったが、
奥さんは「なに様なのあなた!」とぷりぷりしていて、
それを尻目に男子は再び救護班を呼びに走っていってしまった。

救護班がタンカを持って来て、ご主人は搬送されていった。
奥さんもそれについていった。

その男子が紳士の具合を本当に心配していたのと、
奥さんの、ご主人のことをあんまり心配していない様子の対比がすごく印象的で、
花火そのものよりもそちらが印象深かった。

あとで主人に「おじさんが倒れている間ってどんな花火上がってました?」
と聞いたら、
「いや。。全然みてなかった。。。救護班なかなか来なかったし。大丈夫だったかなあ」
と言っていた。

それにしてもあの男子はなんだかかっこよかった。
女の子もいかにも優しい感じで、素敵なカップルだな、と思った。