073. 香りの記憶

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アトリエにはメインの制作部屋と奥に油絵を描く部屋があるのだけれど、
私は以前、油絵の油の臭いが苦手だった。

同じ絵画でも私の専門は油絵ではなかったため、あまり馴染みがなかったのだ。

ご見学にいらした方のなかには、
「ああ、懐かしいですね、油絵のにおい。。学生の頃を思い出します」とか、
「祖父が油絵を良く描いていたので。。このにおい、なんだか嬉しいですね」
ということをおっしゃる方がいて、個人の香りの記憶ってじつにさまざまだなあと
思っている。

高校生の頃、大好きな男の子がいて、
クラスは別だったけれど、委員会?のようなものが一緒だった。
1日おきくらいにある委員会の仕事の日が、待ち遠しくて仕方がなかったものだ。

3年間同じ委員会の仕事をして、3年生になった。

修学旅行先はなぜか青森で、学年を二手に分け、さらにグループに細分化して
様々な行程をグループ単位で行動するというものだった。

宿泊もグループ単位でコテージに宿泊、自炊というものだった。

コテージの配置がその男の子の班と近いといいなあ、なんて高校生っぽい希望を
抱いていたがそんなに現実は甘くなく、
確率は2分の1なのに、学年の大まかな班すら別のグループとなってしまった。

3日間の行程のなかで一度だけ、
バス移動の休憩のパーキングエリアでは全学年一緒になるが、
さほど親しいわけではなかったので落ち合ったりする理由も別になく、
あーあ、と思い友達とお土産を物色していた。

友達と話していた時かなにかだと思うが、背中をどん、と叩かれて、
振り向くとその男の子が立っていた。

探したのだろうか、ぜいぜい息を切らせながら、「佐藤、これ。」
とりんごを1個くれると、走ってまたどこかへ行ってしまった。

わたしはりんごが好物で、友達からの誕生日プレゼントなども
りんごを要求していたのだが、それをどこかで知ったのだろうか。
それともただの偶然だったのだろうか。

そのりんごは新鮮で、とてもよい香りがした。

修学旅行中も、その後も、嬉しくて何度も何度もその香りをかいだり眺めたりしていた。

結局そのりんごを食べたかどうかは覚えていない。
その後、その男の子と何かあったわけでもなく、そのまま卒業した。

でもりんごの香りとそのときの気持ちは一緒になって、
今でも新鮮なりんごの香りを嗅ぐとふわっと嬉しくなる。

こういう香りの記憶、皆さんはありませんか。