050. 手の記憶

050
月曜日のクラスに、さわこさんという女性がいらしている。
すらりとした姿の、楚々としたひとで、毎週車で通ってこられている。

さわこさんの制作は、アクリルから始まって、
油絵、レリーフ、塑造。。と実に多岐にわたっている。

画材や素材の種類はまちまちだけれど、
どの作品も、すみずみまでぴんと神経が行き渡った感じがして、
ああ、さわこさんの作品だなあ、と思わせる独特の空気がある。

今さわこさんは、ご自宅の犬をモデルにして、塑造を制作されている。
耳がぴょこんと折れている、おすわりした犬の像だ。

塑造は、すごく簡単に言うと粘土を使った彫刻だ。

デッサンをもとに、木材を組み合わせてしゅろ縄でしばり、
心棒と呼ばれる、粘土を支えるための基礎をつくっていく。
その上から粘土で肉付けしていく手順で進んでいくのだけれど、
実際に拝見していると、これがなかなか大変そうな作業だ。

形づくっていくとき、さわこさんは
「なんだかね、手が覚えているの」と言われる。

目を閉じて、粘土の像に触れていくと、
いつも触れている「本人」との細かな違いがわかるのだそうだ。

おなかのすんなりしたくびれや、かがんだ後ろ足の厚みなど、
いつも触れているさわこさんしか分からないことが沢山あるのだろう、
出来上がってきている像には、すごくリアルな実在感がある。
なんというか、一緒に過ごしている時間や、
その子への思いがそのまま形になったような実在感だ。

目を半分閉じて、
指先で何度も形を確かめていくさわこさんを拝見していると、
ああ、この像の子はさわこさんの家族なのだなあ、と思う。
大事な時間を垣間見させていただいているような、
不思議な気持ちになる。

楽しく会話がはずむ時間もいいけれど、
こういう風に、それぞれの世界に潜って制作している
しんとした時間は、すごくいいよな、と思っている。