002. 斎木君

002

斎木君は、アトリエを手伝ってくれている男の子だ。
今年の12月には、アトリエのメンバーになる。

斎木君と会ったのは電車の中だ。気がついたのはいっしょにいた山崎さんのほうだった。
彼は私が勤めていた大学の卒業生だったのだが、私は忘れていた。

同居人の山崎さんは、同じ学科に勤める先輩だった。
彼女は記憶力がとてもいいので、斎木くんを覚えていたのだ。

「最近どうしてる?」と聞くと、服の学校にいっています、とのこと。
ああ、そうなの、わたしは最近アトリエはじめたから、よかったら遊びにおいでよ、
といったようなことを話して、名刺を渡して、別れた。10分くらいのことだったと思う。

しばらくして、斎木君はほんとうにアトリエにたずねてきた。
かるい世間話のつもりだったので、ほんとに来るとは思っていなかった。

それから斎木君は、毎週アトリエにやってきた。

斎木君が大学院で勉強していること、本が好きで、書店で長く働いていること、
論文を書いていることなどを知ったのはそれからけっこう後になってからだ。

コラムからは想像しにくいかもしれないけれど、斎木君は、まっとうで優しい、ちょっと変な好青年だ。
いつもは落ち着きがないが、酒をのむと普通になる。

斎木君とはあまり個人的な話はしない。ついついどうでもいいくだらない話ばかりしてしまう。

でも、そういうなかで感じる人柄は、どこそこに勤めていて、とか、
どこそこの学校に行っていて、とかいうおはなしよりずっとその人そのものだよ、という気もする。

最近の私の流行は、斎木君と一緒に住んでいる彼女のことを不意に話題にすることだ。
本人はけして自分から話そうとはしない。すごく大切にしているのだろうな、と思う。
だから、ごくときたま、不意をついて話題にするのがポイントだ。

ものすごく照れて動揺し、その辺をうろうろしたりするのでおもしろい。